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毎日新聞出版『サンデー毎日』で連載中の「会社の流儀」がWeb版で登場。中堅・中小企業の隠れた素顔や取り組みを紹介します。

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理研アルマイト工業(シリーズNo.1694)

復権に挑むアルミニウム表面処理の総本山
信頼の技術と品質は宇宙、そして未来へ



上野 翼 社長


 表面を酸化させて人工的に膜を作ることで、アルミニウムの耐食性や耐摩耗性を向上させる「アルマイト」。その歴史と共に90年の業歴を積み重ね、全国に存在する多くのアルマイト加工処理会社のルーツとして技術の進化をリードし続けているのが理研アルマイト工業株式会社である。
「釜や鍋、弁当箱といった様々な家庭用製品にも用いられてきた『アルマイト』は人間の知恵と研究努力によって、いまや宇宙にまで活用の場が広がっています。アルマイト加工処理業界の『総本山』である当社の強みは、やはり技術力です」
 と話すのは、昨年12月に7代目のリーダーに就任した三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)出身の上野翼社長。現会長である宮川美和子氏から「会社に新しい風を吹かせて欲しい」と同社の経営を依頼されて入社し、その技術力に秘められている無限大の可能性に魅了されたという。



 1929年9月に財団法人理化学研究所が「アルマイト」を発明したことから始まる同社の歴史。その後、アルマイト加工専業工場を各地に創設した理化学研究所から、52年に独立した川崎工場が現在の同社である。
 以降、「アルマイト」をはじめとするアルミニウムやアルミニウム合金の表面処理に特化した技術を磨き上げ、活用途の拡張に成功してきた同社。鉄鋼製品などの耐久性を飛躍的に向上させる工業用硬質クロムめっきの技術も有している
 特に、航空機の機内で客室乗務員が利用するキッチンやトイレ、イスに使用されているアルミニウムは世界の約6割という圧倒的なシェアを持つなど、比較的大型の装備品を得意とする同社は航空宇宙や自動車産業を中心として技術領域を拡大。さらに大手重工メーカー各社からも認定を受け、マスメディアで大きく報道される〝あの〟ロケットや人工衛星、宇宙ステーションでも同社の表面処理技術が採用されているのだ
「宇宙空間に出入りするエアロックのハッチにも当社が表面処理した部品が使われています。宇宙開発に関わる仕事に誇りを持ちながら、さらに先進的な技術に挑戦していきたいですね」
 と意気込みを語るのは井口博常務取締役。82年に入社してから37年間、プロパー社員として第一線で技術と品質の向上を牽引してきた技術部門のトップである。
 コンプライアンスや規格の遵守、システム管理に対する要求が年々厳しくなる中、井口常務が貫いているのが「先を読む」こと。外部のセミナーにも参加するなど積極的に情報を集め、先手を打って対策を講じるのだ。毎月行う品質会議や日々の教育の場を通じて自身が得た情報とノウハウを還元し、社員一人ひとりのスキルアップに繋げている。
「高い技術力を守るだけでなく、もう一つ上のレベルにステップアップしなければなりません。前向きに自分から新しいことにチャレンジする、技術部門のコアになる人材を育てていきたいと思います」(井口常務)

モチベーション高める
若きリーダーの変革


 今月開かれる株主総会では若手社員の昇格人事も発表され、新体制となる同社を29歳という若さで率いる上野社長は若手社員を中心に社内のモチベーションアップを促す。変革の象徴は、玄関に置かれた飛行機の模型とロケットの写真だ。
「自分の仕事にプライドと自信、喜びを感じて欲しいと思い、出社時に必ず目に留まる場所に置いています。常に本質を見極めることを大切にし、私も若い社員たちと『この会社をどう変えていくのか』を一緒に考えています。最近では、自ら考えて行動出来る社員も増えてきています」(上野社長)
 挨拶の励行から始まった変革への取り組みは着実に社内に浸透し、上野社長が就任してから半年間で売上も10㌫程度伸びているという同社。年功序列を廃止し、モチベーション高い人材が存分に能力を発揮できる環境づくりを進めるとともに、それまでクローズであった経営情報も開示し、前月より売上が伸びれば5000円の賞与を支給している。
また、およそ2カ月間をかけて5回程度のディスカッションを行う「ビジョン会議」は課長クラスが主体となり、社員のモチベーションアップに繋がる様々な施策を検討。上野社長の3年先輩として銀行マン当時からチームを組み、共に昨年入社した細見暁代表取締役専務は、その狙いを語る。
「各部門で中核を担う課長クラスの考え方が大事。若い社員から突き上げられる声を課長クラスがまとめ上げ、経営陣に伝えるという仕組みでブラッシュアップしていきます。もちろん、その後のフィードバックとフォローアップも重要です」
上野社長はタッグを組む細見専務を「銀行時代から一番頼りにし、信用・信頼している先輩」だという。

  
新たな強みを創造
5年以内に上場も


休暇所得の促進や残業時間の軽減などメリハリのある職場づくりと、人材育成を通して同社の本質を変えようとしている上野社長と細見専務。今後は、ルーツを共有する全国の同業他社との提携も視野に入れ、アルマイトのパイオニア企業として復権を目指していく
「私が長く代表を務める必要はない。常に周りの人に感謝の気持ちを持ち、志高く日々努力を続けていれば報われる風土を作り、その風土のもと次の経営者を育てていきたい」(上野社長)
また、宇宙レベルで信頼を集める技術力を未来へ継承すべく、井口常務はさらなる進化が必要だと話す。
「私の役目は若い社員たちの道を開くこと。そのためにも10年、20年、30年先を見越して新しい強みを見出すことが重要だと思います」
「100年企業」も視界に捉えた同社は新たな息吹によって生まれ変わろうとしている。その先に見据えているのは、5年以内を目標とするマザーズ上場だ。


【会社データ】
本社=神奈川県川崎市川崎区桜本2―44―1
℡=044―288―5530
設立=1952年10月
資本金=6000万円
従業員数=90名
事業内容=金属製品製造業
https://www.alumite.co.jp


 

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