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毎日新聞出版『サンデー毎日』で連載中の「会社の流儀」がWeb版で登場。中堅・中小企業の隠れた素顔や取り組みを紹介します。

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ROCKY-ICHIMARU(シリーズNo.1779)

見えないところに価値がある。
タイヤ加硫機用バルブのグローバルニッチトップ企業


市丸 寛展 社長


ゴム産業発祥の地と言われる福岡県久留米市に隣接する筑後市に本社を置く株式会社ROCKY-ICHIMARU。1万8000平方㍍に及ぶ敷地面積に6つの工場を構える同社は、タイヤの加硫工程で使われるバルブの設計製造を主軸に、タイヤの製造設備機器や産業系の高圧油圧機器製品などを手掛け、今年11月に創業から43年目を迎える。
「自動機械の設計を得意としていた父がたまたま地元の大手タイヤ工場の加硫機に使われている海外製バルブを見て、父からすると壊れやすく修理も容易ではない製品だったそうです。『これではおそらく製造現場の人たちも苦労してるに違いない』と、まずはバルブの設計開発からスタートしたのが創業のきっかけでした」
 と語るのは、4代目となる市丸寛展社長だ。創業間もなくして同社が開発した3方ピストン弁は、安価で長寿命でメンテナンスが簡単という理想的かつシンプルな製品で、瞬く間に業界に知り渡り大ヒットを記録。「衝撃的に良いモノだった」と今も語り継がれる同製品は現在、国内大手タイヤ工場において9割以上のシェアを占める。


「その後、仏ミシュラン社米グッドイヤー社など、世界の大手タイヤメーカーから引き合いをいただき、元々がニッチな産業ではありましたが、一気に市場が広がっていきました」
と市丸社長は話す。顧客との信頼関係が深まると、同社はバルブ以外でもコンポ―ネント機器の設計など、改善とコストダウンを実現すべく相談に応え、バルブと付随するタイヤ製造機器へ事業領域を広げた。
「父は実際に高い設計能力を持っていましたが、お客様の要望を聞きながら、それを上回るアイデアを24時間365日、常に考えている人でした。儲かることよりもお客様が『これはすごい』と言ってくださることがうれしい。そういったモノづくりの精神は、今も企業風土として深く根付いています」(市丸社長)
 国内はもちろん、世界中で大きなシェアを持つ同社の「モノづくりの精神」が緻密に行き届く規模としては、今の人数がギリギリと市丸社長は話す。国内大手メーカーとは開発面で深く関わり、油空圧や水圧、電気駆動の機器・装置の機械設計や電気制御設計まで手掛ける同社。現場や顧客の要望を愚直なまでに聞き入れながら真価を発揮する技術力は、数ある製造業の中でも一際存在感が光る。
「製品が実際の製造現場でどのように使われているかを見て顧客課題を共有することが大切。当社の設計担当が皆、顧客視点を自ずと兼ね備えているのは、常に現場と近くにいることが大きい」(市丸社長)

世界のブランドに
ふさわしい社名へ


 市丸社長の経歴は94年に東京工業大学・大学院を卒業後、住友金属工業㈱(当時)に入社。設備部で生産設備の改善や新設に携わり、2年後に子会社であった鹿島プラント工業(当時)で設計製造に従事し、その後97年に同社へ入社。2017年、社長に就任した。
「大手の企業で工場や保全、技術、購買、プラント会社など、それぞれの立場の方々と仕事をした経験はとても大きかったです」
 と話す市丸社長は、就任して2年目を迎えた昨年から大きな取組みをスタートさせている。まず昨年4月、㈱市丸技研から現在の社名に変更した。幾分大胆とも思える横文字の社名である。
当社を代表する『ROCKY』というバルブは世界中で売られている有名な製品なのに、なぜか私たちの会社とリンクできていない。ならば『ROCKY-ICHIMARU』という社名で自社製品をブランディングし、世界へ発信していこうという思いで社名を変更しました」(市丸社長)
 併せて同社は作業服を一新。コーポレートブルーと黒を基調にしたユニフォームを着た社員が縦横無尽に立ち回る様子は、クールな「ニンジャ」を連想させる。
「モノづくりの深い部分を継承しながら、旧態依然としたイメージを捨てることが大きな狙いの一つです。中小企業はトップダウン構造に陥りがちで、時代の変化に対して弱いところがある。各々が自分の課題と向き合うべく仕組みを作るところから進めています」
 と市丸社長が言うように、同社は足場となる組織階層を固く形成するべく、マネジメント教育を強化。
 昨年取得したⅠSO(品質、環境マネジメントシステム2つを同時取得)への取組もまた、こうした基盤づくりの一環である。
「人事評価もこれまでの旧態依然とした考え方を改め、職能やプロセスではなく結果を重視する方向にシフトしています。各々が工夫をしながら結果に責任を持って動くという考え方は、テレワークが浸透しつつある今こそ、あるべき方向性であると捉えています」
と市丸社長は語る。


面白い企業を目指す
海外企業とも協業を
 
 リプレイス市場が約7割というタイヤ業界は、毎年ほぼ5㌫ずつ右肩上がりを見せている興味深い市場だ。
「長い歴史を持つ業界と深く関わりながら、当社としては新しい付加価値を創造する『面白い企業』を目指しています。好奇心を大切に、プロ意識を持って面白いと思うことを提案していかないと生きていけない」
寄り道をする人や、物事に興味を持って面白がる人が技術者として大きく育つと市丸社長は話す。
「その時に得た知識が必ず他で役に立つ。そういう意味では必ずしも効率化を求めたくはない。そこに多少の仕組みを加えてマネジメント化させていくことが私の役割です」(市丸社長)
 同社が掲げる「見えないところに価値がある」とは、「見えない部分」への配慮を徹底することで、品質や企業イメージ、ひいては顧客の「期待」を超えて「見える成果」=「製品やサービス」を導くというコンセプト。創業から根差す「モノづくりの精神」をユニークかつ端的に表現している。
「中小企業としてモノづくり企業として、今は事業継承がとても難しくなっています。高度な技術を持った中小企業でも廃業してしまうことがある中で、今は海外を含めた企業との協業も進めながら、貴重な技術力を集結させて『新たな開発力を高めていきたい』という思いで日夜研鑽を積んでいます」
と市丸社長は語る。


本社=福岡県筑後市大字常用601
☎=0942-53-7510
設立=1978年11月
資本金=1800万円
従業員数=78名
売上高=22億3100万円
事業内容=産業用装置や機器の設計製作(タイヤ加硫機用バルブ、配管ユニット・タイヤ加硫機やタイヤ成型機の主要機器・70MPa高圧油圧機器)
www.rocky-ichimaru.co.jp

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